低刺激?or高刺激?

体外受精を始めるにあたって、誰もがもつ疑問かと思います。注射したり、卵をとったりするのは怖いし、お金もかかるし、体外受精ってハードルが高いですよね。ネットの情報によると、卵巣刺激は、刺激が多い方が個数はとれるけど、卵の質が悪くなるようだし体の負担も大きそう。生まれる赤ちゃんにも異常が出るのでは?だからとりあえず刺激の少ない方法で、ということで、ほとんどの方は低刺激から検討されると思います。

しかし、そもそもこの「低刺激」というのは、医学用語ではないし、低刺激法というのは日本でしか行われていません。世界標準の治療ではありません。

また、どの科においても、医療は「説明と同意」に基づいて、すなわち”informed consent”が行われることが必要です。メリットとデメリットがきちんと説明されて、患者の同意を得て治療が行われるべきです。しかし、低刺激法を選択するにあたって、デメリットが十分に説明されていないのは問題だと思います。

デメリットというのは何でしょう?それは妊娠するまでに時間がかかる、ということです。言い換えれば、妊娠率が低いのです。

年齢 \ 卵巣予備能 高い 低い
低い 低刺激※ 高刺激
高い 高刺激 低刺激

あえて、低刺激と高刺激の適応を図示するなら上記の通りです。
卵巣予備能とは、AMHという検査の数値で評価できます。

<年齢低い場合>
30代であれば、そこまでたくさん卵をとらなくても、早い段階で妊娠することが可能です。しかし、一人出産して、二人目もと考える頃にはあっという間に3年くらい経ってしまいます。40歳以上になると、卵の質の低下は1年単位で顕著に起きてきます。2-3個の採卵ではなかなか妊娠にはいたりません。でも、この時になって刺激を希望しても、卵巣予備能の低い場合採卵する個数が増やせないため、治療が長期化してしまいます。よって、卵巣予備能の低い場合にははじめから多く卵をとって余剰卵を保存しておくのが理想的です。

二人目希望で高刺激希望して転院されてくる患者さんはとても多いです。しかし、どうせ刺激するなら若い時に行った方が当然個数も取れるし質も良いです。(二人目のことなんか考えられない、と思うかもしれませんが、一人出産するともっと欲しくなるのが人情ってものです。)そう考えると、※の群も必ずしも低刺激でなくてもよいのです。

<年齢高い場合>
年齢が高い場合(人によって卵の質は違いますが、40歳以上くらいが目安です)、前述の通り、少ない個数採卵していてもなかなか妊娠にいたりませんので、多く取れるうちに最大限の治療をしたほうがよいです。卵巣予備能が低く、刺激してもたくさんとれないのであれば、必要以上の刺激を行う必要はない(このような患者さんではかえって質が低下するという報告もあります)ので、低刺激が適応になります。

以上をまとめると、低刺激の適応としては、「子供は一人いれば十分」という信念のある若い人か、年齢が高く、卵巣予備能の低いグループということになります。

なお、大規模なデータでは刺激によって卵の質が悪くなったり、異常児が増えたりするといった根拠はありませんし、卵巣刺激の副作用も様々な方法でコントロールすることが可能なので、何も高刺激を恐れる必要はありません(そんなに危険な方法だったら世界中で行われているはずがありません)。安心して、ベストな治療を選んでください。

(2017.3.10追記)
年齢低い場合のAMHの高い/低いの境界は、1.5ng/mlくらい、年齢高い場合の境界は0.5ng/mlくらいを目安と考えています。それぞれ数値が異なるので、わかりにくかったかもしれませんので、補足しておきます。

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コメント

  1. より:

    初めまして、記事を拝読しました。
    低刺激のCLから高刺激のCLに転院を考えています。
    昨年12月、39歳6ヶ月時点で、AMHが1.51ng/mlでした(一回目の採卵後に10日超ソフィアAを内服したあとに検査しました)。

    一回目の採卵4つ、二回目の採卵1つがすべて未成熟卵(GV)で、スプレキュアが効かない可能性ありの為、そのCLでは禁忌のHCG注射(2500)に変更しましたが、また2つともGVでした。

    培養士の方には、言いづらそうに高刺激への転院を勧められましたが、ドクターは数が取れても質が伴わない可能性があると言われ、どうするべきか悩んでいます。

    大変ご多忙の中恐れ入りますが、何かアドバイス等をいただけましたら、よろしくお願い致します。

  2. Y@東京HART より:

    コメント頂きありがとうございます。3回の採卵で、未熟卵のみとのこと、お辛いですね。
    まず低刺激・高刺激の問題と、トリガーの問題は分けて考えたほうがよいかと思います。

    トリガーに関しては、HCG2500単位は少ないですね。通常は5000単位か10000単位使用します。禁忌とは・・・先生が痛い目に合われたことがおあり(OHSSで入院など)と察しますが、その量では効かない人もいると思います。

    ただ、トリガーがHCG必須となるタイプの患者さんは、AMHが高くPCO(多嚢胞性卵巣)の方か、ダイエットやストレスによる視床下部機能低下で生理不順の方がほとんどです。夏さんの場合AMHも普通ですし、後者があてはまらなければ、トリガーの問題ではなく、卵子の成熟のタイミングが遅いタイプなのかもしれません。
    内服による刺激では卵胞経2.0cmを越えてからトリガーを使用するのが普通ですが、2日くらい遅いタイミングでトリガーを使用するのが有効である可能性があります。

    また、刺激法に関しては、年齢的にもできるだけ早く、多くの卵子を利用する方法で採卵することをおすすめします。一般的に刺激による質の低下はありません。私ならアンタゴニスト法HMG300単位、デュアルトリガーとすると思います。
    ご参考になれば幸いです。

  3. より:

    お忙しい中、早急に丁寧なご返信をいただき、心から感謝致します。

    HCG必須タイプの件ですが、生理不順ではないものの、十代の最後〜五年間ほど、摂食障害を患った事があり、抗鬱剤なども内服したため、その事が視床下部の働きに悪い影響があったかもしれません。
    また、普段からストレスを感じやすい気質だと思います。
    でも先生が仰るように、成熟のタイミングが遅いのかもしれません。

    貴院で診ていただければ一番良いののですが、我が家の資金が少ないため、主人とよく相談して、なるべく速やかに次のステップを考えます。

    お忙しいお時間を割いていただき、本当に有難うございました。

  4. Y@東京HART より:

    ストレスを抱えやすい気質とのこと、であればトリガーも関係している可能性もありますね。金銭的な部分がネックであれば、注射なども併用して3個程度排卵させるようにして2-3周期人工授精をやってみるのもありだと思います。そのほうが、1-2個採卵するよりも妊娠率は高いです(卵管が働いていることが前提になりますが)。

    いずれにせよ、①複数の卵子を利用すること②トリガーのタイミングを遅めにすること③トリガーにHCG5000単位を使用すること これらを満たす治療を行うことが必要だと思います。体外受精を行うことで問題が見えてきたので、無駄な経験ではありませんよ。
    治療の成功をお祈りしています!

  5. より:

    無駄な経験ではないと仰っていただき、とても励まされます。
    有難うございます。

    自分にどんな治療が合うのか検討がつかず、悩んでばかりいましたが、先生にアドバイスをいただき、視界が開けました!
    貴院への転院も含め、次の治療についてよく考えてみます。

    貴重なお時間を割いていただき、本当に有難うございました。
    先生のブログ記事、詳しく分かりやすく書かれており、大変勉強になります。
    今後も愛読させていただきます。