妊娠率90%を超えるクリニック

そんなクリニックがあれば、誰もがかかりたいですよね。でも、実現不可能ではないと私は思います。それはどんな治療内容でしょうか?
①全胚(胚盤胞)凍結
②全胚PGS施行
③移植周期は全て排卵周期FBT(凍結胚盤胞移植)
④移植の前周期に子宮内膜日付診・内膜炎検査施行(初回のみ)
⑤移植周期に子宮鏡検査・内膜のscratch施行

このような内容です。卵が取れないor胚盤胞にならない場合は除外されてしまうじゃないかと思われたかもしれませんが、採卵についての戦略は別頁にてまた説明します。それぞれ説明していきます。

①採卵周期での移植は、卵と子宮の内膜が完全に同期していないため、着床しづらい人がいます。それを解決するのが凍結胚移植です。

初期胚の凍結は卵へのダメージが大きく、妊娠率が低いです(冷凍した野菜を思い浮かべてください、パサパサになりますよね。細胞の中の水が多いために結晶ができて細胞膜が壊れるからです)。よって、卵にとってよいのは細胞が小さくなる胚盤胞まで育てて、胞胚腔の水を抜いて(脱水して)瞬時に凍結する、「ガラス化」保存です。

②は現時点で日本では未認可ですが、近い将来実現するでしょう。

③ホルモン補充周期の移植では着床しない人がいます。

④東京HARTでは、移植の日付も人によって調節しています。
ホルモン補充周期D-5での日付診結果がPOD3(黄体期3日目)→D-6~6.5FBT、POD4~5→D-5FBT、POD6~7→D-4FBT といった具合です。
今のところ反復着床不成功例のみ検査していますが、卵に余裕がない場合ははじめから検査したほうがよいと思っています。
最近では、日付診と同時に内膜の慢性炎症がないか確認するための検査(CD138免疫染色)も行っています。

⑤移植前の子宮鏡は、ポリープや炎症がないか確認するほか、子宮内を洗浄し、内膜を刺激する効果があると考えられます。
また、子宮鏡の先端で軽く内膜を引っ掻く(scratch)と着床しやすいという実感があります。
scratch効果には文献的な根拠がありますが、前周期に行ったほうが良いのか、同周期に行ったほうが良いのかについては明らかになっていません。
移植周期に行う場合は、出血が続くほどの深い傷はつけないほうがよいと思います。


海外の報告では、PGSを行って正常染色体数の胚盤胞を戻しても妊娠率が60%くらいが頭打ちなのですが、その理由は着床の問題と考えられています。東京HARTには着床障害の患者さんが多く受診されるのですが、日付診が非常に有効です。日付をずらしても着床しない例では、私は子宮鏡所見をもとに以下を行っています。

・内膜が浮腫状に白っぽい→慢性子宮内膜炎を想定してクラビット2週間内服、移植前後1週間ステロイド内服
・内膜がゴワゴワと隆起しているように見える→筋腫の芽があることを想定、GnRHアゴニスト(点鼻)3週間使用してから移植周期へ

このように徹底した対策を行えば、妊娠率90%も夢ではないと思います。残るのは、どうしても内膜が厚くならない例と、純粋な習慣流産だけで、割合は非常に少ないです。
ただ、全胚凍結となるとラボスタッフの作業も増えますし、PGSのコスト、排卵周期移植では患者さんの通院回数が増えることも考えると、結構みんな大変になります。
保険診療の場合は、医療費の制限内でできる診療が決められていますが、不妊治療に関してはそういった縛りがないので、どこまでも徹底することはできます。全員に必要ではないものを全員に行うことは過剰医療とも捉えられますが、切羽詰まった患者さんでははじめからフルコースの治療を行わないと妊娠の機会を逃してしまうリスクもありますし、難しいところです。
現実的な対応としては、患者さんと相談して希望に基づいて治療を行う、ということだと思います。

東京HARTでの品質目標は、35才未満の凍結胚盤胞移植成績(着床率)が60%で、例年ほぼ達成していますが、最近③と④が増えて特に40代での治療成績がかなり上がってきていると実感しています。なかなか着床せずに悩んでいる患者さんの参考になれば幸いです。

<2017.9.15 追記>

最近、習慣性流産または反復着床不全で、かつ不育症検査で異常を認めない患者さんの中に、Th1/Th2比の高い方が多くみられ、免疫抑制剤(タクロリムス)内服によって妊娠継続に至る患者さんが増えてきています。⑥として、タクロリムス内服(移植2日前から10日間)を加えたいと思います。

<2018.1.12 修正>

子宮内膜炎検査とscratchについての説明を追加しました。

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コメント

  1. […] 「病院選びにあたってのアドバイス」や「PGS(着床前スクリーニング)の本当の意義」、「低刺激?or高刺激?」、「妊娠率90%を超えるクリニック」の作り方など、私たちの知りたいテーマを1つ1つ丁寧に説明してくれています。 […]