前向きに生きるということ

今回の記事は、流産を経験したり、治療の終了を考えている患者さん達に読んでいただければと思って書きました。

不妊治療は、精神的に辛いものだと思います。どうして自分だけこうなんだろう、何が悪いんだろう・・・そう思ってしまうようなこともきっと多いと思います。

でも、そんなときは「これには何か意味があるんだ」と思うことが、前向きに生きる元気につながるのではないかと私は思っています。

私は、中学高校とカトリックの女子校で過ごしました。その頃(今は遠く離れた地にいますが)敬虔なクリスチャンの友人がいました。よく彼女と一緒に日曜日に教会に通ったものです。彼女は本当に心のきれいな天使のような人で、誰からも好かれ、彼女が結婚するときには仲のよかった私たちは皆、祝福する気持ちと同時に、彼女が「誰かのものになってしまう」という寂しささえ感じたものでした。

私は彼女に憧れて一緒に教会に通ったのですが(笑)、神様を信じるということがどうしてもできなかったので、あるとき彼女に、「神様がいるということは証明できないのに、なぜ信じられるの?」と純粋に聞いてみたのです。すると、彼女は言いました。「神様がいるかどうかは重要じゃない。私にとって必要なんだ。」と。そういった考えもあるんだと、私は少し衝撃を受け、そして妙に納得しました。

自然科学においては、真実は一つしかありません。科学は、真実は一つであるという根本的な前提に基づいて成り立っています。例えばサイコロの目をふることを考えたとき、1の目が出る確率は1/6です。実はここでの真実とは、「各面が1/6の確率で出る」ということではありません。暗黙の了解として、サイコロが「精巧に作られた正六面体で、重さに偏りがない」ということがあるのです。そして、この条件のもとで「どの面にも同じ確率で転がる」ということが絶対的な真実なのです。統計学は全ての事象が同確率で起こるという普遍的な真実のもとに成り立っています。だから、ある事象が起こる確率=ある事象の場合の数/全ての場合の数、という式が成り立つのです。

一方で、心を持った私たちが生きる世の中では、絶対的な真実はありません。そこでは「神様のいたずら」も起こりうるし、同時に二つの真実が成り立つ、ということもあるのです。真実とは、人の心の中にあるものです。

例えば、妊娠して流産してしまったとき、その流産した赤ちゃんが本当に貴重な命であった、ということも真実であり、一方ではそれは起こるべくして起こったことで、悲しみを乗り越えて生きていかねばならない、ということもまた真実です。前向きに生きていこうとすることが、失った赤ちゃんの価値を否定してしまうということにはなりません。赤ちゃんを大切に思う気持ちと、明るく前向きに生きていくことは、同時に成り立ってよいことなのです。

同じように、長く続けた治療に終止符を打とうとするとき、一生懸命治療を頑張ったことと、自分は子育て以外に生きる役目をもって生まれたと考えることは、どちらも正しいことなのです。

何を真実と考えて生きていくかは、その人次第です。でも、あなたの人生を生きるのはあなたしかいません。自分の人生に責任を持って生きる、ということをできるのはあなただけです。

私は、人はそれぞれ役目を持って生まれてきたと思っています。彼女にとっての信仰が心の中の真実であったように、これは私にとっての真実です。本当にそうなのかどうかはわかりません。でも、そう考えることが、前向きに生きることにつながると思っています。

なぜ前向きに生きなければいけないのか?それは、私たちが一人で生きているわけではないからです。私たち一人ひとりの存在を必要としている人が、どこかに必ずいると思うからです。

自分に自信がもてない、私には価値のない人間だと思ってしまう、そんな気持ちになっている人もいるかもしれません。治療に失敗が続くと、そう考えてしまうのも無理はありません。でも、自信がなくても、人の役に立つことはできます。自信がないことは、逆に長所でもあると思います。慎重になれるし、粘り強く努力することができるからです。

人の役に立ちたいという願いは、控えめな思いであるようで、実は自分の利益を追求するよりも強大な行動を起こすことができると思います。自分が手に入れたいものは、手に入れてしまったらもうそこで終わりです。限りない欲望がある人は稀ですし、それはそれで一つの才能かもしれません。個人の利益追求によって周囲の幸せがもたらされることもあるでしょう。でも、ごく一般の人にとっては、意欲を維持し続けるのは難しいことだと思います。

しかし、人の役に立つということには、終わりがありません。自分は一人しかいないのに対し、周りの人は全人類-1もの人数がいます。人の役に立つことは、自分一人の喜びよりも、もっと多くの喜びを生むことができ、それはポジティブなフィードバックとなって私達の行動を強化してくれます。そして、人から喜ばれることは、私達に生きる価値や自信を与えてくれることにもなるかもしれません。

小さなことでも、少しずつでも、人の役に立つことを続けることで、今の自分が変わっていくことは必ずできると思います。

応援しています。私の思いが、どこかでこれを読んで下さっているあなたの心に届きますように。

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