治療に難渋されている患者さんへ

何度採卵しても、良い卵が得られずに悩んでいる患者さんへ。少しでもそんな患者さんの助けになれればと思って書いています。

「本当に、良い卵は残っていないのでしょうか?」

良い卵がとれないからといって、本当に良い卵が残っていないとは限りません。

① トリガーが合っているのか?

② 卵子の活性化が起きているか?

③ 前周期投与や刺激法の工夫は?

これらを考え尽くしていなければ、まだなんとかなる可能性はあります。以前にも書いたことですが、視点を変えてより詳しく説明したいと思います。

① 採卵2日前の点鼻スプレーやHCG注射は、どちらでも反応する場合がほとんどですが、中にはどちらか一方しか効かないタイプの人もいらっしゃいます。

点鼻が効かないタイプは、普段から月経が長かったり不順であったりするタイプの人に多くみられます。HCGが効かないタイプは予測できません。どちらかでうまくいかなければ(空胞が多いのが特徴的)、変えてみるか両方使うのがベストです。

トリガーによる最終的な卵胞の成熟が促されないと、卵胞壁から卵子がはがれないため、空胞が多くなり、また採れた卵子も受精率が悪く、胚盤胞までいかなかったりします。トリガーを変えると劇的に改善することがあります。

② これはICSIのときに問題になります。通常のふりかけで受精が起こると、細胞膜の電位変化で卵子の活性化が起こります。しかし、ICSIではそっと受精させるため、卵子の目覚めが起きず、受精はしても分割が途中で止まってしまう場合があります。

活性化の問題が考えられる場合は、modified-ICSIという、活性化を促すICSIを行うことで解決できます。この方法は、2004年に報告されて以来、その後の報告がなく、世界中には浸透しませんでした [1]。よって、日本で(世界でも?)行っているのは当院くらいだと思います。おそらく、全員にとって必要なものではないので、多くの人数を集めて検討しても有効性は認められないのだと思います。しかし、実際これを行うことによってはじめて胚盤胞ができるかたも多くいらっしゃいます。ICSIが全てではないのです。

③ 採卵前周期にピル(1周期)やジュリナ(7日間)を内服してから、刺激周期に入ることで、卵子の質が改善することがあります。機序については明らかではありませんが、脳から出るホルモンを抑制することが、良好な卵子をリクルートする(出だしを作る)のに有効だと考えられています。

卵巣予備能の高い場合にはピルを、低い場合にはジュリナを(量は個々に合わせて)処方しています。これで良い卵が得られるようになることがあります。

刺激法については、アンタゴニスト法か、アゴニスト法(ショートorロング法。ざっくりと30代ではロング、40代ではショート。)かの2択ですが、どちらがいいかはやってみなければわかりません。順序としては、

(1) アンタゴニスト法

(2) 前周期投与&アンタゴニスト法

(3) アゴニスト法

(4) 前周期投与&アゴニスト法

の順で、治療歴なども参考に方法を決めます。

(1)の結果で、おしければ(2)(グレード低いが胚盤胞にはなる場合)、全然合わなければ(2)をとばして(3)。(3)も全然合わなければ、最終的に低刺激にしたりします。

通常は採卵2~3回までに、合うやり方が見つかります。

もともとの卵の質が高いほど、ストライクゾーンが広いので、早く結論が出るようなイメージです。合うやり方が定まれば、その方法で胚盤胞を貯めてから移植にかかることをすすめます。

①~③を試す前に、あきらめてしまう必要はありません。

また、卵の質は確率の問題なので、やはり複数卵を利用することで、やっとよい卵が得られることは多くあります。今まで胚盤胞が一つもできなかったという患者さんが、20個採卵して、そのうちの1個だけが胚盤胞になり、その胚盤胞で妊娠されることもあるのです。本当に、奇跡の卵です。

悩んでいる患者さんが、早めに適切な治療を受けることができることを、心から願っています。

参考文献

[1] Ebner T, Moser M, Sommergruber M, Jesacher K, Tews G. Complete oocyte activation failure after ICSI can be overcome by a modified injection technique. Hum Reprod. 2004;19(8):1837-1841. doi:10.1093/humrep/deh325.

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