PGSに対する慎重な姿勢

基本的に私はPGS(着床前スクリーニング)推進派なのですが、最近では慎重な考え方をとっています。
以前に「PGSで正常な胚を移植する場合、残るのはほぼ着床の問題だけである」というような記事を書きましたが、最近は、着床率があまり上がらないことの理由として
胚自体の質の違いや、検査そのものの胚への影響というものも無視できない問題と考えています。

理由としては、
・PGSで正常とされた胚を2個移植しても1個しか着床しない例が多くある [1]
・生検する細胞の数が多いほど、胚のグレードが低いほど、着床率は低くなる [2]
というデータが挙げられます。

[1] の論文ではPGSを行った場合と行わない場合の治療成績を比較しています。下の表より、38歳以上の患者さんを対象とした場合、SET(1個ET), DET(2個ET)ともに、PGSを行った場合に臨床的妊娠率(胎嚢確認)・生産率の上昇が認められ、流産率の低下が認められました。統計的な有意差が認められたのは以下の太字のみになりますが、これはn数が少ないことも影響しています。

Table3 -38歳以上の患者さんのIVF結果-

SET(PGS)
n=45
SET(cont.)
n=27
DET(PGS)
n=15
DET(cont.)
n=189
臨床的妊娠率 28 (62.2%) 10 (37.0%) 13 (86.7%) 97 (51.3%)
生産率 26 (57.8%) 5 (18.5%) 12 (80.0%) 81 (42.9%)
流産率 2 (4.4%) 5 (18.5%) 1 (6.7%) 16 (8.5%)
双胎率 0 0 5 (3.3%) 29 (15.3%)

私が特に注目したいのは、DET(PGS)の結果です。15人の患者さんのうち妊娠に至ったのが13人、出産に至ったのが12人で、そのうち双胎が5人 (単胎が7人)です。

つまり、2個移植してもそのうちの1個しか着床しなかった例が半分以上あるということです。二つの胚を移植した条件は全く同じなのに、着床する胚としない胚があるということは、胚そのものの違いということになります。

次に、文献[2] のデータはPGSによる細胞の採取が結果に影響することを示唆しています。

TEbiopsy-小柳由利子の小部屋

胚のグレードがB以下であると、採取した細胞数が多いほど着床率が減少しています。つまり、採取する細胞数は5個以下が望ましいことがわかります。

(実際には、細胞数があまりにも少ないと結果の正確性に問題が出てくるので、5個程度の採取が最も適当と考えられます)

これらのことから、胚の染色体数が正常であっても、胚側の何らかの問題により着床しない場合があることがわかります。細胞数が少ないことは一つの要因であると考えられますが、それだけが原因なのかはわかりません。

両論文とも1個の胚あたりの着床率は60%が頭うちです。この原因は、胚なのか、着床なのかが気になるところです。不妊でない人(産み分け希望など)を対象としたPGS後の着床率が約85% [3]という結果と、上記のDET(PGS)の妊娠率が86.7%という結果がほぼ同じであることを考えると、やはり着床の問題というよりは、胚側の要因(細胞数だけでなく、細胞質の質など)が関与している可能性が高いのではないかと思います。

60%というのが高いと考えるか低いと考えるかは状況次第、人次第ですが、染色体数だけで産まれる胚かどうかの診断ができないとすると、PGSはまだ夢のような技術とは言えません。そういう意味で、日本産婦人科学会の慎重な姿勢には一理あると思います。

とはいえ、上記のデータからわかる通り、年齢が高い場合には妊娠率を上げ・流産を減らすためにPGSが有効であることはほぼ確実です。諸外国で当然のように使われている技術を、日本でだけ提供しないのはやはり問題だと思います。医療は、患者に対して最高の技術を提供する義務があると思います。臨床研究を行うこと以上に、「PGSは生命の選別ではない、生命を生かすための選択である」という不妊治療の現場への理解をもっと広めていくことがとても重要だと感じています。

参考文献

[1] Kang H-J, Melnick AP, Stewart JD, Xu K, Rosenwaks Z. Preimplantation genetic screening: who benefits? Fertil Steril. 2016:597-602.

[2] Zhang S, Luo K, Cheng D, et al. Number of biopsied trophectoderm cells is likely to affect the implantation potential of blastocysts with poor trophectoderm quality. Fertil Steril. 2016;105(5):1222-1227.e4.

[3] Taylor TH, Patrick JL, Gitlin SA, Crain JL, Wilson JM, Griffin DK. Blastocyst euploidy and implantation rates in a young (<35 years) and old (≥35 years) presumed fertile and infertile patient population. Fertil Steril. 2014;102(5):1318-1323.

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