不妊治療のあり方について考える

不妊治療の目的とは

この仕事をしていると、多くの人の妊娠や出産という、人生を大きく左右する機会に関われることを幸せに思うことも多いのですが、一方で長年かけて治療しても結果が出ない患者さんの辛さをともに背負い、苦しい思いをすることも多いです。

高度な医療を提供するにはやはり費用はかかりますので、どうしても高額な治療となってしまいます。高いお金をかけて、貴重な時間を捻出して、治療に向き合って来られたのに、結果として子供を諦めざるを得ない、そんな患者さんを目の前にするたびに、「私たちの仕事は本当に人々の役にたっているのだろうか」と自問自答してしまう日々です。

患者さんを応援する立場である医師が、このようなことを言うのは批判を浴びてしまうかもしれないのですが、もし不妊治療という選択肢がなければ、もっと幸せだったかもしれないという患者さんもいるかもしれないと、思うことがあります。

昔は40代に入ってから子供を持とうということはまれだったと思います。結婚年齢が早かったためと、早い段階で養子をもらうということも一般的だったからです。

今は、治療をすることで多くの方が妊娠の機会を手にすることができる時代になりました。治療という選択肢があることで、それを避けては通れない時代になったとも言えます。

本人はあまり治療に気が進まないけれども、まわりにすすめられて、またはパートナーの希望で、治療をする患者さんも中にはいらっしゃるのではないかと思います。また、長く治療を続けるつもりはなかったけれど、お金や時間をかけるにつれて、後に引けなくなった、という状況の人も多いのではないかと考えます。

患者さんが治療を希望されて受診されている以上、私たちはその要望に最大限応えようと思います。また、実際に44歳や45歳で妊娠出産される方はいるので、「可能性は0」とはなかなかいえません。私たちとしても、なんとか妊娠させてあげたい、奇跡でも起こって欲しい、そういう願いで、一緒に頑張っています。

しかし、その頑張りが、患者さんに過剰に期待を抱かせたり、治療を強いるものであってはならないと思います。

医師の仕事は、治療を行うことですが、それだけではありません。医学の倫理では「病気ではなく人を診よ」とよく言われますが、治療を通して患者さんに幸せになってもらうことが最終的な目標です。私たちが願うのは、患者さんが妊娠することではなく、その先にある、子育てを通してより豊かでハッピーな人生を歩んでもらうことです。

反対に、ハッピーになるには、治療だけではないということを伝えるのも、現代の生殖医療に携わる私達の役目なのではないかと思います。

親になる選択肢としての「養子縁組」

ずっと書きたかったことですが、今までなかなか勇気が出ませんでした。私がお伝えしたいのは、親になるには「不妊治療」だけでなく「養子縁組」という選択肢もあるということです。

海外では、不妊治療の延長として「卵子提供」や「養子縁組」といった選択は一般的です。日本では、文化や宗教の違いから、「魂と肉体が別々である」という感覚が一般的にはなく、卵子提供というのは馴染みません。どうしても、遺伝的な親は誰なのか知ることが重要であるように感じてしまうからです。

一方で、養子縁組は、昔はとてもよく行われていました。

下表を見ていただくとわかる通り、未成年の子供との養子縁組はかつては多く行われていましたが、戦後数が減少しており、近年は代わりに体外受精による出産の件数が増え続けています。

◇養子縁組件数と体外受精出生児数

養子縁組件数と体外受精出生児数-小柳由利子の小部屋

出典:高知県立大学 地域教育研究センター講師 野辺陽子氏作成

このように、不妊治療が成長し続ける一方で、養子制度は衰退し続けています。しかし私は、今、養子縁組が再考されるべきときなのではないかと考えます。

養子縁組が減少してきた理由としては、体外受精の発展ではなく、おそらく女性の社会進出などといった社会背景が関わっていると思います。女性があまり子供を産まなくなったため、産むことと育てることがイコールで結ばれるようになってきたわけです。

一方で、若くして出産したけれどまだ母親にはなれない、といったケースや、「孤育て」ゆえの児童虐待など、現代特有の問題が増えてきています。これを解決するためにも、養子縁組というのが社会的に必要とされている時代なのではないかと考えます。

養子縁組というのは、子供の福祉のために存在する制度で、主役は親ではなく「子」になります。ですから本来「親になりたい」という理由で利用する制度ではありません。この「受取る側」から「与える側」への意識の転換は、その距離感が大きいほど難しくなってくると思います。

患者さんの立場としても、「特別であること」や「社会奉仕」を望んでいるわけではなく、「普通の幸せ」「普通の家族」を望んでいるのだと思います。その意味で、まずは社会全体が、養子が普通である世の中になることが大前提だと思います。

ちょうど昨年、養子縁組斡旋団体の努力により、「特別養子縁組あっせん法案」が衆議院で可決・成立しました。これにより、政府からの金銭的な補助や研修の支援が行われるようになり、斡旋機関の質が上がることが期待されます。また、最近ではテレビやドラマでも養子をテーマにしたものが取り上げられるようになりました。

今後、養子縁組という家族の形が再び広まっていくことが期待されます。

現代の不妊治療に求められること

さて、私達医療従事者にできることは何でしょうか。患者さんに対し、実際の妊娠の可能性に基づき、見通しを持った治療を提案すること、また、治療以外の選択肢についても適切に提示することが、現代の不妊治療の現場で必要なのではないかと思います。

とはいえ、実際の診療の場で、こういった選択肢について話すのは難しいことです。とてもデリケートな内容なので、患者さんによっては抵抗を示される方も多いと思うからです。また人それぞれ考え方が異なるので、患者さんが希望する情報なのかといった判断が難しいからです。

制度自体にもまだまだ課題があります。提供件数が圧倒的に少ないこと、特別養子縁組では養親の年齢制限が厳しいこと、金銭的な支援が乏しいことなど。養子という選択肢が多くの人にとって現実的なものとなるまでは・なるためにも、このようなブログや雑誌といった媒体で今後情報を発信していきたいと思っています。

養子をとるのは、不妊の患者さんだけでなく、実子のある家庭でもできることです。理想論と言われるかもしれませんが、子供は社会で育てるものという意識、「産む」だけでなく「育てる」ことに意義があるという考え方が浸透し、顔の似ていない親子が普通であるような世の中になりますように。そうすれば多くの子供たちも救われるし、辛い不妊治療に苦しむ患者さんも救われるのではないかと思います。

こどもの日にちなんで、今の私の思いを伝えさせていただきました。

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