胚移植についてのこだわり

胚移植は、体外受精において最も重要な場面です。
採卵については誰が行ってもさほど違いはありませんが、移植に関しては術者による違いは出てきます。集中力と繊細さが試される場面です。また、常に向上心をもって、日々の手技をいかに考えながら行っているか、ということが重要になってくると思います。

先月発表された胚移植に関するASRMガイドラインを踏まえ、私が特に気をつけていることなどを説明したいと思います。

ASRMガイドラインによると、
A 根拠十分(有効/不要であることが明らかなもの)
1. 超音波カイド下の移植(有効)
2. 柔らかいカテーテルでの移植(有効)
3. 胚移植後のベッド上安静(不要)

B 根拠中等度(有効/不要とする報告もあるが真偽について断定はできないもの)
1. 胚移植前後の鍼灸(不要)
2. TEAS(経皮的低周波ツボ通電法)(不要)
3. 移植前後の抗生剤投与(不要)
4. パウダー入りの手袋の使用(は問題ない)
5. 胚移植の際の頸管粘液の除去(有効)
6. 胚移植のカテーテルの位置(子宮中央から奥で底部から1cm以上手前が良い)
7. 胚移植後にすみやかにカテーテルを抜くこと(は問題ない)
8. 移植後のカテーテル先端に頸管粘液が付着していても、事前に除去できていれば問題ない
9. 胚移植の際にカテーテルに胚が残っていても、すぐに2回目の胚移植ができれば問題ない

C 根拠不十分
1. 胚移植の際の鎮痛剤服用
2. 胚移植の際の麻酔薬使用
3. 胚移植の際のマッサージ治療
4. 胚移植の際の漢方薬内服
5. 胚移植が難しい患者さんのみに超音波カイドで移植すること
6. 胚移植のカテーテルのベストポジション
7. 移植後のカテーテル先端への血液の付着
8. 胚移植の際の胚のベストな注入速度

まとめると、
・胚移植は超音波ガイド下で、柔らかいカテーテルを使って行うこと。
・頸管粘液はできれば除去し、カテーテル先端は子宮の奥から約1cm手前で移植を行うこと。
・胚の注入速度は普通でよく、カテーテルはすみやかに抜く。
・カテーテル先端に粘液や血液が付着していても問題はない。
・鍼灸やツボ刺激はあえて行う必要はない。
といったところでしょうか。

当院の移植のこだわりは、経腹超音波を使用することです。患者さんには、尿を貯めておいていただくといった手間をおかけしてしまいますが、経膣超音波ではカテーテルが超音波のプローブに引きづられて奥へ入りすぎてしまったり、カテーテルについているストッパーが刺激になって子宮頸部から出血したりしてしまうことがあるため、どうしても見づらい場合を除いては使用していません。

尿が溜まっていなかったり、子宮後屈の強い場合にはカテーテル先端が映りづらいこともありますが、途中までは映ることが多いので、あとは画像上の子宮の長さとカテーテルの目盛を参考に、先端が見えなくなった位置からカテーテルを〇cm進めたところで移植、という風にすることもあります。

カテーテルについては、柔らかいものから硬いものまで4種類準備しており、患者さんによって使い分けています。主に使用するのは、1本タイプ(single lumen)のカテーテル(写真の上から3番目)、または外套のついた2本タイプ(double lumen)のカテーテル(写真の上から2番目)の2種類です。前者でトライアルを行い、スムーズに入らない場合のみ後者を使います。頸管が曲がっていたり狭い部分がある場合は柔らかいカテーテルだけでは先に進まないため、先に外套を通しておいて、後から細くて柔らかいカテーテル(写真なし)をその中に通していくという形です。

ETカテーテル-小柳由利子の小部屋

double lumenのカテーテルを使用するときの注意点は、外套の曲がりを子宮頸部のカーブに合わせること(鑷子の先を使って調節)。必要以上に外套を押し込まないこと(内子宮口を超えたところまでにする)です。これは、出血を避けるためです。外套の先からカテーテルが出ない場合は、外套をすすめるのではなく、その場で少し回転させて角度を変えると、スムーズにカテーテルが入ることがあります。先端が壁にぶつかっているだけということです。

ガイドラインには出血は関係ないとありますが、関係あるとする報告もありますし、できるだけ出血させないに越したことはありません。また、ベストな方法で移植ができているかの判断材料になるため、カテーテル内への出血のありなしの報告は必ず確認するようにしています。

また、頸管粘液の除去は当院では行っていません。新鮮胚移植がメインの海外では、必要なのかもしれません(新鮮胚移植ではホルモン値が高いために粘液が多い傾向があります)が、当院の場合粘液が多い例はそれほど多くはなく、また多い場合には頸管を洗浄しても表面だけしか取りきれないからです。粘液の付着が軽度の場合は、トライ用のカテーテルで頸部を数回往復させて粘液を拭ったのち、本番用のsingle lumenのカテーテルを使用して移植する場合もあります(これは私のオリジナルですが)。粘液が多い場合は、無理せずdouble lumenのカテーテルをを使用しています。

参考までに、私自身が移植を行った患者さんの、最近の凍結胚盤胞移植の成績は、
2月・・・10名中、妊娠(胎嚢確認まで)が8名、卒業が5名。(平均年齢38.0歳、妊娠率80%、継続妊娠率50%)
3月・・・21名中、妊娠(胎嚢確認まで)が12名、卒業が7名。(平均年齢40.1歳、妊娠率57.1%、継続妊娠率33.3%)

でした(新鮮胚移植は着床の条件がベストではなく手技の評価にならないため含んでいません)。当院の年間の凍結胚移植の成績が、妊娠率50%前後なので、結構頑張っていると思います。特に2月の成績が良いのは、治療歴の浅い患者さんが多かったことが理由かもしれません。※ちなみにPGS例はありません

今後も日々精進していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. まつか より:

    後屈でも移植後の安静は必要ありませんか?

    • Y@東京HART より:

      返信遅くなりすみません。前屈・後屈にかかわらず移植後の安静は不要です(ガイドライン上も推奨なし)。
      タイミング後は、後屈の場合うつ伏せで安静にすると妊娠しやすいようです。参考になれば幸いです。