病院選びにあたってのアドバイス

前回、不妊治療には正解はないと書きましたが、不妊治療にも標準治療のようなものはあります。
現在日本には不妊治療施設があまりにも多く、治療も様々なので受診する病院を迷ってしまわれる方も多いと思うので、病院選び(主に体外受精を行う場合)にあたって何を考えればいいのかといったことについて書きたいと思います。

日本の不妊治療を解剖する

日本の不妊治療施設は、大きく3つに分かれると思います。一つは標準治療を行っている施設、もう一つはいわゆる低刺激系の施設、もう一つは先どりの治療を取り入れて行っている施設です。それぞれ、標準型、経験型、未来型、と名付けておきます。(下図参照)日本の不妊治療-小柳由利子の小部屋

ただし、このように3つに分けたのは説明の便宜上であって、実際はそれぞれが完全に区別できるわけではありません。施設によって主な傾向はあったとしても、ある項目については先進的なものを取り入れたり、ときには患者さんの希望に沿って刺激法を変えたり、といったように、オーバーラップしている部分はあると思います。

それぞれ説明していくと、標準型の施設は、JISARTという機構に属している施設が多いです。標準治療、すなわち世界中で行われている調節卵巣刺激法(ロング法・ショート法・アンタゴニスト法)という方法が体外受精治療の主体になります。ちなみにJISARTは、品質(正しく行われているか=安全性)に対する評価機構なので、成績が良いことを保証するわけではありません。マイルドな刺激法や初期胚凍結など、それほど妊娠率の高くない方法を取り入れている施設もあります。

経験型の施設は、低刺激・自然周期法など、治療成績よりも患者さんの負担を配慮した治療を行っている施設です。経験型としたのは、これらの治療が根拠には乏しいからです。Evidence basedである現代医学に対して、医師の経験や思想に基づいて行われるのが経験医学です。近年の医学の流れは前者ですが、ここでevidenceが全てではないということも説明しておきたいと思います。論文にするには統計的な有意差があることが必要であり、そのためにはある程度の数を集めなければなりません。そこでは大多数の傾向は反映しますが、少数派は見逃されてしまいます。個々人にとって、根拠に基づいた方法が効果的である可能性は非常に高いですが、必ずしも効果があるとは限らないのです。

最後に未来型の施設とは、それほどエビデンスレベルの高くない報告に基づいた検査や治療を積極的に取り入れて行っている施設です。こういった治療は、難渋性の患者さんや少数派の患者さんには合うものが見つかる可能性がありますが、すべての人に必要かというとそうでもありません。無駄の多い治療になってしまう可能性は否めません。ただし、evidenceの高い治療のみを行っているばかりでは医学の発展はないということにも注意が必要です。仮説と検証を繰り返して医学は発展してきました。小さな報告を取り入れて、積極的に検証しようとする姿勢は、難治性の患者さんへの希望となるばかりでなく、医学の発展にも寄与していると考えられると思います。

どの施設を受診したらよいか?

治療に限らず、何かを始める場合に、自分がマイノリティーであることを想定して始める方は少ないのではないかと思います。標準型の施設は、成績が高く、多くの人に合う可能性が高いので、最初に受診を検討する候補としては第一選択になると思います。

経験型の施設の受診をすすめるのは、刺激が合わないか刺激しても卵がとれないタイプの方(AMHが低い場合が多い)です。まずは標準型の治療をやってみて、結果が出ない場合転院という流れがよいと思います。よく、卵巣刺激をすると卵巣がボロボロになるという話がありますが、採卵の翌周期に卵胞の成長が遅れることはあっても、その後不可逆的に反応が落ちてしまうような経験はなく、そういった報告もありません。卵巣ボロボロ説は、都市伝説みたいなものだと思っています。逆に、経験型の施設で治療を開始して、長く時間を費やしてしまうことで、妊娠の機会を失うリスクのほうに注意が必要だと思います。

経験型の施設のメリットは、採血結果がすぐに出たり、午前も午後も採卵をやっていたりすることです。刺激をしない治療を行うのであれば、自分の排卵に合わせた時期に卵を採ってくれるこういった施設のほうが、未熟・排卵済みなどが避けられるため合っていると思います。

未来型の施設の受診をすすめるのは、難治性の患者さんです。具体的には、様々な方法を試しても良好胚が得られない場合、または良好胚を複数回移植しても妊娠に至らないか初期流産を繰り返し、着床障害や不育症などが疑われる場合です。先にも書いたとおり、着床に関しては分かっていないことが多いため、エビデンスが確立した治療法はないのですが、こういった施設ではかなり細かい項目まで検査して治療の対象としています。また、不育に関しては不妊とは別の専門性の高い分野なので、不育症専門医がいるほうが安心です。ただし、本当にこういった検査が必要なのはひと握りなので、初めから全員に細かい検査を行うべきだとも思いません。個人の考え方次第です。調べられるものは初めから全て調べておきたい、といった希望があれば、最初から受診を検討してもよいと思います。

我々が目指すべき医療とは

東京HARTは、どちらかというと標準型で、エビデンスとして確立した治療を高いクオリティーで提供することを目指した施設だと思います。ただし、子宮内膜日付診や子宮内膜炎検査、黄体期スタート法など未来的な治療も取り入れています。一方、刺激の合わないタイプの人には低刺激法を行うこともあります。

一つの施設で3つのタイプの治療を網羅することができれば理想的(下図左)なのですが、設備や人的資源の問題があり、なかなかそういうわけには行きません。そのような中で、不妊治療のあるべき姿というのは、これら3つのタイプの施設が手を取り合って、患者さんによりよい治療を提供できるよう協力していくこと(下図右)なのではないでしょうか。

理想の形-小柳由利子の小部屋現実の形-小柳由利子の小部屋

私自身も、難治性の患者さんや刺激の合わなくなった患者さんに紹介状を書いたり、セカンドオピニオンを依頼することもあります。患者さんを紹介する際には、できるだけ丁寧に治療経過を書くように気をつけています。さらに、紹介状をもらった側も、その患者さんが妊娠して卒業した際には、紹介元の病院に報告を書くような丁寧さがあってもよいと思います。双方にとっての喜びでもあり学びにもなると思うからです。

このように、施設主体ではなく、患者さんを主体として施設同士が三位一体となって協力していく姿が、現在の日本における目指すべき不妊治療のあり方なのではないかと思います。

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