自然周期での小卵胞採卵について

最近、自然周期採卵を行っている日本のクリニックで、小卵胞の採卵ということが行われるようになってきています。これらの小卵胞(10mm以下の卵胞)から採れる卵子の多くは未熟卵なのですが、その中の一部に成熟卵が含まれていて、出産にも至ることが昨年報告されていますので、取り上げてみたいと思います。(Fertility and Sterility 106(1), 113–118
なお、この方法は未熟卵の体外培養(IVM)とは異なります。

・方法

2011年から2013年までに、新橋夢クリニックにて自然周期で採卵スケジュール入りした1291人のうち、主席卵胞(dominant follicle: DF)および小卵胞(non-dominant follicle: NDF)の両方が少なくとも1個ずつ存在する771人を解析対象としました。(DF, NDFは便宜上こちらで略語をつけさせていただきます)

穿刺した卵胞の大きさを3-10mm, 11-15mm, 16mm以上の3グループに分け、3-10mmをNDF、11mm以上をまとめてDFと分類しました。

主席卵胞(DF)と小卵胞(NDF)のそれぞれから得られた卵子の発生能力を検討しました。

・結果

771人の患者から、498個のDF由来の卵子と3557個のNDF由来の卵子が得られました。卵子の成熟率(MⅡ卵の割合)は、DFで93.6%、NDFで25.4%でした。

MⅡ卵を対象として二群間で胚の発生・妊娠・出産率を評価すると、受精率には差を認めなかったものの、NDFおよびDF間で、胚盤胞到達率(22.1% vs 52.6%)、臨床的妊娠率(10.5% vs 24.7 %)、出産率(8.6% vs 19.3%)に大きな差を認めました。(下表)

NDFの有用性を評価するため、DF+/-およびNDF+/-(卵子が含まれていたか否か)によって患者を4グループにわけて出産のアウトカムを検討したところ、DF-の患者のうち87.6%(261/298)でNDF+であり、そのうち12.8%(38/261)が出産に至りました。

一方、DF+の患者のうち87.5%(414/473)がNDF+であり、そのうち8.9%(37/414)はNDF由来の卵子から、20.0%(83/414)はDF由来の卵子から出産に至りました。(下表)

・結論

自然周期における採卵の際、従来は穿刺しなかった10mm以下の小卵胞の中にも赤ちゃんになる可能性のある卵子が含まれており、発生・妊娠・出産率は低いものの、治療成績の底上げに寄与すると考えられました。

・解説

この論文から、小卵胞にも(体外培養・体外成熟を行わなくても)産まれる卵があることがわかりましたが、成熟した卵胞から得られる卵に比べると利用の効率は非常に悪いといわざるをえません。

NDFから得られた卵子では25.4%が成熟しており、成熟卵のうち出産まで至る卵子が8.6%ということから、とれた卵子のうち2.15%が産まれる卵子ということになります。一方DFから得られた卵子では、93.6%が成熟、出産が19.3%であり18.0%が産まれる卵子という計算になります。このことから、小卵胞からの卵子は通常の卵胞由来に比べて出産の見込みは1/10程度であると言えます。

また、DF+/-にかかわらず、NDFは14個程度穿刺していて、採卵できた数が5個前後という結果であり、そもそも回収率自体が30-40%と低いです(未熟な卵は卵胞壁から剥がれてこないため、採れないことも多い)。それも含めて概算すると、一人産まれるのに必要な小卵胞の数は140個近い膨大な数になります。

出産数全体を見るとNDF由来の卵による出産数が、DF由来のそれに追いつかんばかりの数となっているのは、NDFは数で稼いでいるからであり、ある程度卵巣予備能が保たれた人でないとこの方法による可能性を生かせないと考えられます。

この研究の患者背景は、平均年齢約37歳で、不妊原因は48%が男性因子、38%が原因不明、11%が卵管因子と、easy caseが多いです。NDFがDFになるまで待ってから採卵すれば、10倍以上の出産の見込みが期待できるはずであり、卵子の数の減少や質の低下のすすんだ例では、刺激を行う採卵法のほうが早く妊娠にたどり着けると考えます。

また、この研究結果から示されるとおり、主席卵胞が必ずしも「最も質が良い」わけではありません。「主席」という日本語訳が誤解を招きやすいのですが、「最も成長が早い」ことと「最も質が良い」ことは必ずしも関連しないことが、このことからもわかると思います。

・感想

私がこの小卵胞採卵法について心配するのは、効率が悪いということだけではなく、産まれてくる赤ちゃんに問題がないのか、という点です。

卵子は卵胞の中で様々な因子の影響を受けて成熟します。その詳細は明らかになっていない部分も多いですが、教科書的には下図のようなことが知られています(出典:「卵子学」森崇英ら編集)。

また、配偶子形成・成熟というのは体細胞の遺伝情報を半減させるだけでなく、遺伝子周辺の情報の書き換え(リプログラミング=初期化)を含む、非常に複雑な過程です。小卵胞では、例えMⅡ卵がとれたとしても、体外へ出された刺激でMⅡへ変化しただけで、発育するのに十分な準備が整っていない可能性があります。

その証拠として、NDF由来の卵子は胚盤胞到達率が低いです。また、胚盤胞になったものが出産に至る割合はDFとNDFで差はないことがSupplemental Figureに示されていますが、産まれることと、産まれた赤ちゃんが健康であることは同じではありません。体外受精による影響が議論されてきたエピゲノム異常(インプリンティングの異常など)が増える可能性は十分考えられるため、注意深い検討が必要だと思います。

女性の体にとって「自然」なことが一番良い方法だと信じられているため、自然周期採卵は日本で広く行われていますが(妊娠率の低さについては別の議論になりますが)、小卵胞採卵について言えば、自然であることに固執するあまり、卵にとっては逆に非常な「不自然」を強いています。胎児がお母さんの子宮の中で37週まで過ごすことが大事であることと同じように、卵子にとっては卵胞が約16mmを超える大きさになるまで卵巣の中で育つのが自然なことだと思います。それが科学を学んできた者としては普通の感覚ではないかと思います。

世界のスタンダードである、全ての卵胞が成熟するまで待ってから採卵をする調節卵巣刺激法は、出生児の調査も多く報告されており、自然妊娠で産まれた赤ちゃんと変わりがないというのが現時点での一般的な見解です。日本発の小卵胞採卵法が世界に浸透するには、さらに多くのデータの蓄積と出生児の調査が必須であると思います。

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