反復着床不成功例に対するタクロリムス投与

当院には、着床の問題で悩まれて受診される患者さんが多いのですが、内膜の日付の検査や不育症採血でも異常を認めない場合に、血中Th1値が高い数値を示す方が多くいらっしゃることが最近わかってきました。この数値が高い場合、免疫抑制剤であるタクロリムス(2-3mg/日)を内服してもらうと、スムーズに妊娠に至ります。
反復着床障害のとき疑うべきは、内膜の日付のズレ、慢性子宮内膜炎、不育症、内膜が薄い、のいずれかですが、実感としては頻度の多い順に、内膜の日付のズレ>Th1高値>内膜が薄い>慢性子宮内膜炎>>>不育症という感じです。

ThとはヘルパーT細胞のことで、獲得免疫はTh1とTh2のバランスで成り立っています。Th1は細菌やウイルスなどの異物に反応する細胞性免疫、Th2は抗原に反応する液性免疫です。Th1に偏ると炎症や自己免疫反応が起きやすくなり、Th2に偏るとアレルギーが起きやすくなります。(ネットで検索すると、わかりやすく説明したサイトがいくつかあります)

受精卵は、自分とは別の細胞なので、異物として認識されて拒絶されてもおかしくないのですが、それがどうして子宮内膜に受け入れられ着床するかは、詳しくわかっていません。

さて、Th1の高い症例に対するタクロリムスによる治療効果をみた報告は少ないですが、日本のクリニックから2017年3月に報告された論文があるので、ご紹介したいと思います。

「反復着床不成功の不妊患者に対するタクロリムスを使った免疫抑制治療は妊娠を促進する」(Am J Reprod Immunol. 2017;78(3):e12682

目的:反復着床不成功(RIF)患者のART周期の後に、血中のヘルパーT(Th)1細胞の数値で妊娠の予後を予測することができるかどうか検討する。

方法:Th1/Th2(CD4(+)IFN-γ(+)/ CD4(+)IL-4(+))細胞比が10.3以上と高いRIF患者(n = 124)で2011年から2016年までに杉山産婦人科でタクロリムスの投与を受けた症例に対する前向きコホート研究。患者はTh1の数値によって3群に分けて検討した。Th1 22.8%以下を低値、22.8~28.8%を中等値、28.8%以上を高値とした。

タクロリムス投与量は、Th1/Th2比 10.3~13.0未満で1mg、10.3~15.8未満で2mg、15.8以上で3mgとした。

結果:タクロリムス治療による臨床的妊娠率は、Th1低値、中等値、高値それぞれの群で48.8%、43.9%、33.3%であった。継続妊娠/出産率は、低値群で46.3%とほかの群に比べて有意に高かった(中等値群で34.3%、高値群で21.4%)。

結論:Th1/Th2比によりRIF患者にタクロリムスによる免疫抑制治療を行った場合のARTによる治療成績を予測できることがわかった。末梢血中のTh1の数値が妊娠の予後と負に相関していることがわかった。

<解説>
この結果から、反復着床不成功例ではTh1が高くなるほど妊娠・出産率が下がることがわかりました。この報告では患者平均年齢は35.9歳と若めですが、採卵周期のD-3新鮮胚移植を行っており、低値群での成績はかなりよい成績なのではないかと思います。中等値以上では量を増やしているにもかかわらず、妊娠、特に出産に至る例が少なくなっています。タクロリムスの効果が足りていない可能性があります。着床後にTh1がさらに上昇するなど、薬の必要量が増す可能性もあるため、妊娠後も定期的に採血を行って、薬の量を調節する必要もあるのではないかと思います。

何ミリまで量を増やしても大丈夫なのか、何ミリで十分なのか、といったことについては、さらに検討が必要だと思います。臓器移植後では通常1回0.15mg/kgを1日2回経口投与(体重50kgの場合15mg/日)、以後徐々に減量という方法が基本のようです。さすがに臓器移植と比べると、必要量はもっと少なくてよいのではないかと思いますが、高値群ではもう少し増やす必要があるのではないかと思います。副作用については、本報告の症例では大きな副作用は見られなかったとのことです。

また、この論文では治療の適応とタクロリムス投与量をTh1/Th2の比で決定していますが、妊娠率の評価としては、Th1の数値でグループ分けしています。比と数値のどちらが重要なのかは文献を調べてみましたが、よくわかりませんでした。ただ、実際臨床の現場で採血結果を見てみると、Th1/Th2比はそれほど高くないけれども、Th1,Th2どちらも高い方もいらっしゃいます。こういった場合は、やはり免疫抑制剤による治療の適応になるのではないかと思います。

現時点で治療適応の基準値はありませんが、Th1/Th2比が10を超えるのが一つの目安で、あとはTh1の数値や治療歴を参考にして、治療を決定するのがよいのではないかと考えます。

ちなみにこの論文は2015年に報告された論文(Am J Reprod Immunol. 2015;73(4):353-361)の追加検討で、タクロリムスの有効性についてはすでに示されています(治療群の臨床妊娠率は64.0%、対照群では0%)。反復着床不成功の患者さんには、是非Th1,Th2採血を行ってみることをおすすめします。

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