反復着床障害に対する子宮内hCG投与

着床はとても複雑な現象であり、その全貌は謎に包まれています。しかし、その最も肝となる部分は、半分は非自己である「異物」を、拒絶することなく受け入れるという点であると考えられます。
着床に関わる因子としては、着床の窓の問題や、免疫、炎症などについてが知られていますが、どれがどの程度影響しているのかはわかりません。
私が考えるに、それぞれが影響しあっていて、最終的に同じ所へ向かっているのだろうと思います。ただ、免疫というのはこれらの中でも特に重要なのではないかと考えています。

例えば、経験的にタクロリムスを内服することで、多少の日付のずれは緩和される印象があります。また、今回紹介させていただく「子宮内hCG投与」にも同様の効果があります。タクロリムスは免疫自体を作用させにくくする方法であり、子宮内hCG投与は胚を抗原として認識されにくくする、といった胚の側へのアプローチです。

今回は、この子宮内hCG投与の有効性の根拠となる論文を紹介したいと思います。

・採卵後の子宮内へのhCG投与:ランダム化比較試験
Human Reproduction 2016 vol: 31 (11) pp: 2520-2526

イランのタブリズ医学大学の女性健康研究センターで行われたランダム化比較試験です。158人の参加者のうち、80人に対し、採卵直後に子宮内に0.5mlの生理食塩水に溶かした500IUのhCGを注入し、78人は対照群として0.5mlの生理食塩水を注入しました。
採卵後3日目に初期胚移植が行われました。結果として、着床率は37%vs17%、化学的妊娠率は59.2%vs31.3%、臨床的妊娠率は50.7%vs16.4%、継続妊娠率は40.1%vs13.4%と、いずれも有意な上昇を認めました。
※平均で2.5個/対照群2.7個の胚を移植しているため、着床率(胚1個あたり)は妊娠率よりも低くなっています。

また、凍結胚移植については以下の論文を紹介します。
こちらは要旨だけなので、詳細はわかりませんが、筆者名からすると中国からの論文と思われます。

・異なる移植失敗数の女性に対する子宮内hCG投与の効果
American Journal of Reproductive Immunology 2018 vol: 79 (2) pp: e12809

1-3回の移植失敗例について、それぞれ凍結胚移植前に、HCG1000IUの子宮内投与を受けた群と受けていない群に分けて後方視的に比較検討しました。
最初の移植失敗(A群、n=26)、2回目の移植失敗(B群、n=122)、および3回以上の失敗(C群、n=77)群について、
子宮内hCG投与後の臨床的妊娠率はA群で76.92%、B群で54.91%、C群で48.05%でした。
対照群と比較すると、A群とC群の臨床的妊娠率は、76.92%vs 56.81%、48.05%vs 33.33%で、有意に高くなりました。

いずれもn数が少ないものの、移植前の子宮内へのhCG投与が有効であるという客観的根拠になりそうです。機序については論文中には考察されていませんが、胚盤胞の外側の栄養外胚葉から放出されるhCGが、内膜による拒絶を免れるために必要な因子を誘導している可能性があります。(もともと栄養外胚葉にはMHC分子と呼ばれるタンパク抗原は発現していないはずなのですが、一部に拒絶されやすい人がいるということは、0ではないのでしょう)

hCGを多く投与することで、異物として認識されにくくなり、着床が促されるのではないかと考えられます。SEET法も、同様の理屈になります。

例えば、どうして子宮外妊娠では内膜も日付もない卵管に胚が着床するのでしょうか。これは、狭い場所であるがゆえに逃げ場がないことに加えて、濃度効果によってhCGの効果が生理的に高まっている状態であるからなのかもしれません(あくまでも推測ですが)。

タクロリムスも子宮内hCG投与も、反復着床不成功例での有効性が当院でも確認されていますが、着床率を上げる一方で、流産率も上昇します。不思議なことですが、子宮内膜は染色体異常がある胚かどうかを見分けるセンサーの役割をしているということです。これらの治療には、このセンサーの働きを鈍くする意味があるのです。ですから、やみくもに投与するのではなく、本当に着床障害なのか、卵子側の問題なのかというところを見極めて使わなければなりません。PGT-A(PGS)との併用が可能であれば、それが完璧です。

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