不妊治療での抗生剤の適正使用について

不妊治療クリニックでは、処置後によく経口の抗生剤が出されます。今回抗生剤の内服の必要性についてご質問がありましたので、抗生剤の適正使用(必要性と種類)について考えてみたいと思います。

まず確認事項ですが、抗生剤の感染に対する予防的投与というのは、すでに感染症が起こっている場合とは違って「無菌化する」ということが目的ではありません。菌の量を減らし、「自然の免疫力によって抵抗できる程度の量にする」ということが目的です。ですから、菌が少量で通常の免疫力があるなら、基本的には不要です。また世界的には、術後感染予防対策としては、清潔創(消毒した部位)の術後には抗生剤は使用しないという流れになっています。

米国産婦人科学会(ACOG)のガイドラインによると、採卵・移植・子宮内の処置(搔爬や生検)のいずれも、抗生剤の使用は「not recommended=推奨なし」となっています。一方日本では、採卵や移植については規定はなく、子宮内の処置については「科学的根拠はないが行うことが勧められる(エビデンスレベルについては3段階で一番下)」となっています。念のためといった感じです。

ただ、採卵や移植は子宮内処置と違って通常消毒を行いません。卵や胚にとって消毒液は害となるからです。そのため、こういった処置後に日本では抗生剤投与をを行うことが一般的です。

では感染はどんな時に起こるのでしょうか?膣内は無菌ではありませんが、膣内の常在菌は通常子宮内・骨盤内感染の原因とはなりません。問題となりうるのは大腸菌やB.fragilis(バクテロイデス属)などの嫌気性のグラム陰性桿菌(悪玉菌)です。

人によって、これらの量や増えるリスクは異なります。悪玉菌も少量で通常の免疫力があるなら問題とはなりませんが、免疫が弱っていたり、菌の量が少なくても、腹部の手術歴があり骨盤内に閉鎖腔(液体の溜まり)が存在したり、内膜症性の嚢腫などがあると、そこが培地になって菌が増殖するリスクが増加します。

海外の報告では、抗生剤投与なしでも採卵後の感染例は約0.4%(全て内膜症などの基礎疾患のある人のみ)程度、一方投与ありでは0%です。これをどう考えるかです。ACOGガイドラインには、ハイリスク例については抗生剤処方を検討してもよい、と書かれています。

内膜症を正確に診断できていなかったりハイリスク例の見落としなどもありうるため、採卵後は全例に抗生剤処方という考えもできます。一方、善玉菌まで殺してしまい子宮内フローラに影響を与えると考えることもできます。今後検討の余地があるところだと思います。

移植については、子宮の頸部などに菌がいたとしても子宮内への持ち込みはわずかと思われるため、抗生剤を処方しない施設も多いです。当院では、ときに移植後に腹痛・発熱を起こしたりする患者さんがいるため、全例処方するようにしています。

では、次に抗生剤の種類について考えていきたいと思います。

「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」によると、婦人科手術後の推奨抗生剤は以下の通りとなっています。

①CMZ(第2.5世代セフェム)
②FMOX(第3世代セフェム)
③ABPC/SBT(ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬合剤)
④CEZ+MNZ(第1世代セフェム+メトロニダゾール)

抗生剤に関しては難しい説明は避けますが。感染対策のターゲットは、上述の通り膣由来の大腸菌やバクテロイデスなどの腸内細菌科菌群です。腸内細菌科菌群を広くカバーする抗生剤は、セフェム系では①セファマイシン系のCMZ(セフメタゾール)と②オキサセフェム系のFMOX(フロモックス)くらいです。ペニシリン系は、菌の耐性化がすすんでいますが、βラクタマーゼ阻害薬を加えたものは問題なく、逆にセフェム系のほうが最近では耐性化が問題となっています。

薬剤の選択を考えた場合、①CMZは注射薬のみであるため、外来がメインの不妊クリニックでは内服薬のある②FMOXが頻用されているのが現状です。ただ第3世代セフェム内服薬は腸管からの吸収が悪いこと、耐性化が増えている(大腸菌の約20%)ことから、③ABPC/SBTがベターだと考えられます。内服薬としては同類のAMPC/CVA(アモキシシリン・クラブラン酸)のオーグメンチンという薬があります。④第1世代セフェムのCEZ(セファゾリン)は、海外のガイドラインではこれがファーストチョイスになっているのですが、大腸菌には効果はありますがそれ以外の多くのグラム陰性菌をカバーしない上、耐性化も第3世代セフェム以上に進んでいます。MNZ(メトロニダゾール)は抗真菌薬ですが嫌気性菌にも効果があるため、バクテロイデスなどをカバーする目的でCEZと併用する使い方となっています。ただ、大腸菌には効果はありません。このため耐性化の問題を解決できません。

よって、結論としては①CEZ(セファゾリン)を採卵時に点滴静注投与、または③AMPC/CVA(オーグメンチン)の内服投与(3日程度)がベストな選択と考えられます(ちなみにオーグメンチンはサワシリンと併用する内服方法が効果的です)。なお、婦人科でよく処方されるLVFX(クラビット)も、耐性化がすすんでいる(大腸菌の約30%)ため、避けたほうが良いでしょう。

以上長くなりましたが、抗生剤の適正使用について考察しました。なお、あくまでもこれは予防投与であって、特にハイリスクでない場合抗生剤の種類で予後が大きく変わるといったことはありません。ですから、これが絶対的な正解というわけでもなく、院内にある薬で対応するというのも間違いではないと思います。

(参考文献)
ACOG Practice Bulletin -Clinical Management Guidelines for Obstetrician-Gynecologists (June 2018)
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン
抗菌薬の考え方、使い方ver.4
抗菌薬インターネットブック
院内感染対策サーベイランス(JANIS)

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