着床の窓の検査に関する考察

ネット上でERA検査についての疑問をよくみかけることがありますが、何となくすっきりとしない部分があるため、今回IgenomixさんにERA検査についてご質問させていただき、考察したことをまとめたいと思います。

まず、ERA検査の仕組みですが、着床したことのある集団と反復着床障害の集団での自然周期の排卵後5日目の内膜の遺伝子発現パターンを比較し、発現に差がある遺伝子をピックアップしてパターンを解析することからスタートしたそうです。最も頻度の高いパターンをD-5 receptiveの基準とし、日数のズレは、ホルモン補充周期での黄体補充開始からの日数をずらしながら、子宮内膜の遺伝子発現パターンを比較することにより、日付を診断するプロトコルを作成したということです。

注意したいのは、ERA検査では検査時点の内膜の状態を評価しているのであって、そこから着床するまでは時間差があるということです。実際には移植後~着床までの日付の経過(内膜側)と移植胚の発育段階(胚側)、の二つの要因が着床に関わってきます。

内膜側の問題

・自然とホルモン補充の違い
自然周期では、内膜の質がホルモン補充周期とは違うと言われます。理由としては、ホルモンの変動がなだらかであることや卵巣からEやP以外のホルモンが出ることなどが関係していると考えられます。

そのためか、自然周期ではホルモン補充周期より、着床の窓の幅が広いと考えられています。自然周期では同じ人がD-5に移植してもD-6に移植しても妊娠率はほとんど変わりません。体内では胚は排卵後5~6日目に孵化するということからも、これは理にかなっていると考えられます。

・自然周期では日付の解釈に注意が必要
窓の幅が広いということから、無難なのは自然周期での胚移植になりますが、自然周期では排卵日を確実にするため、卵巣刺激やトリガーを使用することが多くなります。自然周期でも完全に卵巣刺激のない周期なのか、内服や注射による刺激を行った周期なのかで、Pの上がるタイミングが異なるため、日付の解釈には注意が必要です。フェマーラ内服などではほぼずれは出ませんが、クロミッド+HMGなどで刺激をすると排卵の0.5~1日程度前からPが上がるため、日付が早く進んだことになりD-5がD-6相当くらいになります。

・ホルモン補充の薬の違い
ホルモン補充で使う薬剤の種類も、日付の進み方に影響を与えます。そもそも、ホルモン補充周期での日付のズレは、薬剤の吸収性の個人差も関連していると考えられています。黄体ホルモンの膣錠のうち、ルティナスとウトロゲスタン、ルテウムの3種類の比較をした報告によると(ERAを行わずD-5に移植した場合ですが)、血中濃度の上昇がマイルドであるルティナスは血中濃度の個人差によらず比較的安定的な成績を出しています。ウトロゲスタンやルテウムはそれぞれに血中濃度が至適である集団では成績が高いですが、そうでないと低く、「当たり外れ」がでます。特に血中濃度が上がりやすいルテウムでは顕著です。つまり、黄体ホルモンが上がりやすい薬剤では、窓の幅が狭くなる(早く閉じる)傾向があることが推測されます。

以上をまとめると、ホルモン補充周期は窓の正確性が強み、排卵周期は窓の幅が強みで、それぞれの長所を知ったうえで使い分けることが重要です。

過去に着床していたり、胚移植したが着床しなかったといった履歴があれば、着床の窓を推定するのにとても役立つ情報になります。

胚側の問題

・胚の発育段階(ステージ)の影響

ERA検査は、基本的に日付のズレのない集団では、ホルモン補充周期のD-5に一般的なステージ(④前後)の胚を移植すると妊娠率が一番高いという前提に基づいています。世界的にそれが移植方法のスタンダードですし、多くはD-5の”receptive”の時期にPGT-A正常胚を移植して、高い妊娠率(7割程度)が得られていますので、そこに異論はありません。ただ理想としては、移植時の胚のステージごとの着床率のデータが欲しいです。その中で最も着床率の高い胚のステージが基準となり、それより早いステージであれば遅めに、遅いステージであれば早めに移植するのがよいというように、胚の状態に合わせた移植のタイミングの決定ができるからです。もちろん、融解後にすぐになかなか元に戻らない胚や、融解したとたんに殻から出てしまうような胚もあるので、必ずしも計画通りにいくわけではないのですが。

現状、そういった胚のステージごとのデータの報告はないので、④前後を基準として、初期胚盤胞では半日~1日程度早く、⑥完全脱出胚盤胞では、半日~1日程度遅く移植するという風に考えます。(半日は膣錠の使い始めの時間で調節)

移植のタイミングを表にすると、以下のようになります。

③④
ERA結果(移植推奨日)
D-4 D-3 D-4 D-5
D-5 D-4 D-5 D-6
D-6 D-5 D-6 D-7

胚の発育スピードには個人差もあるため、過去の胚の発育パターンを参考に決めることが大切です。また、D-5の④とD-6の④では、D-5の④のほうが全体的に発育が早いので早く①→⑥にすすみます。①や⑥でも1日ずらす必要はないと思われます。

参考までに、以上の説明を図に示したものを下に貼っておきます。二つの表は、どちらもERA結果がD-5である同一人物を想定したものです。

まとめ

・ERA検査は「着床の窓の」検査というより、「移植のタイミングを知る(予測する)」検査。単純に推奨の日に移植すればよいというものではなく、着床時期を見越して考える必要がある。

・移植後~着床の時間軸に関係する因子としては、内膜の日付の進み方や着床の窓の幅と、胚側の発育段階がある。前者は周期の条件によって異なるし、後者は移植する胚の状態によって異なる。

・自然周期の移植では着床の窓の幅が広く、ホルモン補充周期の移植では着床の窓のずれが少ない。

・胚の発育ステージとしては、④前後を基準として考える。これはデータによるものではなくあくまでも実績に基づいた臨床的解釈。それより初期の胚では早めに、よりステージの進んだ胚では遅めに移植する必要がある。

当院ではERA検査の代わりに子宮内膜日付診という検査を行うことが多いですが、これについても基本的な考えは上記と同じになります。

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