Q&A 胚提供による妊娠・出産は日本で可能ですか?

Q:不妊治療クリニックにたくさん保管され、廃棄されてしまう余剰胚盤胞を養子縁組のように活用できるシステムがあればよいと思いますが、そのようなことは日本では可能ですか?

A:胚提供は、日本では法律やガイドラインでは禁止されていません。平成12年に厚生科学審議会の専門部会で、「第三者からの精子・卵子または胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って,第三者から提供される精子・卵子による体外受精および第三者から提供される胚の移植を受けることができる」とされましたが、審議が続いている(中断している?)状態です。日本産婦人科学会からの胚提供に関する見解は以下にありますので、ご興味がありましたら読んでみてください。 http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=35

簡単に言うと、子供の福祉に関する懸念と、親子関係の規定の問題があることから、「胚提供による生殖医療は認めない」「これら胚の移植を行ってはならないし、斡旋もしてはいけない」ということです。 ただし、卵子・精子に関しては書かれていないのです。現状、登録施設においてAID(提供精子によるAIH)は行われており、JISARTなど一部の機関では提供卵子による治療も試験的に行っています。(ドナー不足によりどちらも件数は少ないですが) 子の福祉というのは、具体的には遺伝的親と分娩親の2組があることにより、子のアイデンティティーの確立に支障をきたしたり、成人後に自分の出自(提供によって生まれたという事実)を知った場合の葛藤や不信感を持ったりといった問題です。これらは主にAIDによって生まれた子供に叫び続けられてきたことの反省を含んでいると思いますが、「子の出自を隠し続けること」を指示した医師に問題があるのであって、幼い頃から出自を明らかにしていれば多くの場合問題ないのではないかと思われます。 親子関係については、誰が親になるのかが法的に規定されないことの問題です。家庭裁判所やそれに代わる公的な第三者機関が親子関係を規定するなど、養子縁組と類似したしくみが必要なのではないかと書かれています。例えば生まれた子供が障害を持っていた場合に分娩親が親になることを拒否したり、提供者が自分の子供に不幸があった場合に子供を取り返そうとしたり、そういったときに根拠がなければ対応できないからです。 親子関係に関する枠組みづくりも、未だ内閣府の専門部会で審議が続いている途中だそうです。 さて、臨床現場からの意見としては、胚提供は卵子や精子の提供よりもハードルが高いのではないかと思います。カウンセリングの専門家や提供によって生まれた当事者の意見が大きくなり、海外では出自を明らかにすること、ドナーの匿名性を緩和することが求められる動きがある中、提供者に事前にカウンセリングを行い、提供者の情報を公開するのか、するとしたらどこまで公開するのか、といった話を行うことは必須と考えられます。 しかし、余剰胚の提供の場合、どのタイミングで話をするのかが難しいと思います。凍結時、あるいは卒業時、であっても、まだ無事に生まれるかは分からないので、胚を提供する余裕があるかはわかりません。出産後は、育児に忙しすぎてそれどころではないでしょう。廃棄するか延長するかの時点が良いのでしょうが、実際には音信不通で期限切れとなり廃棄になる胚のほうが多いです。個人情報の観点から、クリニックから患者さんに積極的に連絡することも通常行いません。 また、近親婚の観点からも注意が必要です。卵子だけ、精子だけの場合はいとこ婚(半分兄弟)以下ですが、胚提供の場合は兄弟婚のリスクがあります。確かに確率としては低いですが、日本は島国なので海外よりそのリスクは高いでしょう。また、AIDで生まれた子が医師になって(ドナーは慶応の医学部生)、遺伝子の力の大きさに驚いたといったことも本に書かれていました。兄弟や親子が似た環境を選ぶことは多いですし、通常よりも確率は上がると思います。 そういったリスクを考えても、やはり提供者に自分の子にも提供の事実を伝えておく必要性や、少なくとも職業や出身地をオープンにする必要性など、事前の説明は行っておかなければならないでしょう。 心理的・制度的な問題以外にも、上記のようなハードルがあるため、簡単には行かないのではないかと思います。 ただ、すでにある胚を戻せばよいので精子や卵子提供よりも効率よく出産に結びつけることはできますので、体制さえ整えば是非広まってほしい方法だと思います。

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